バナナを見ると、いまだに思い出す人がいる。
40代前半、パートをしていた飲食店でのこと。
その店は普段、私はランチ、彼女はディナーのシフトで、顔を合わせたことはなかった。看護師を目指しているという大学生のバイトの女の子。
ある土曜日、ランチの人手が足りず、私は助っ人として呼ばれた。その日、初めて彼女と一緒に仕事をすることになった。
とにかく忙しい日だった。
そんな中、デザートの注文が入った。「バナナチョコレートパフェ」。
このお店はチェーン店で、デザートも全部マニュアル化されていて、誰でも作れるようになっている。私は全体を見て、手が足りないところに入る係。その時、手が空いていたのは彼女だけだった。
「バナナチョコレートパフェ、作ってくれる?」
「えっ?わたしが?!」
「お願いします。マニュアルはここにあるから」
ファイルを開いて渡すと、彼女はこう言った。
「バナナって、どうやって剥くんですか?」
……え。
一瞬、何を言われているのか分からなくて、見つめ合ったまま時間が止まった。
はっ、と我に返って、私がやった方が早いわ!と、結局自分で作った。
彼女は後ろに立っていたが、私の手元を見るでもなく、どうしていいか分からないという様子で、きょろきょろと周りを見渡していた。
出来上がったパフェをトレーに乗せて、彼女に運んでもらった。
それきり、彼女とシフトが重なることはなかった。
でも、あれから10年以上経った今でも、ふとバナナを見ると考えてしまう。
「バナナの剥き方が分からない」って、どういうことだったんだろう。
①すんごいお嬢様で、バナナは剥かれて切られてヨーグルトにのった状態でしか見たことがなかった。
②単純に嫌いで、食べたことがなかった。
③家訓でバナナ禁止。
でもさぁ、
テレビで剥いてるところ、見たことあるでしょう?
誰かが剥いて食べてるとこ、見たことあるでしょう?
学校給食でバナナ、出たことあるでしょう?地域によっては出ないのかな?
結局、謎は謎のまま。
彼女は今、看護師になっているんだろうか。
まだ、バナナの剥き方が分からないままなんだろうか。


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